中心的な研究テーマ
 
「植物細胞壁成分の化学構造の解明」
オゾン分解法を用いたリグニン立体構造の解析
リグニン立体構造の解明は、リグニンの構造と反応性を定量的に関係付ける鍵となります。フェニルプロパン単位(リグニンのモノマーユニット)間の結合様式の中で、最も多いと考えられているβ-O-4 結合には、エリスロ型・スレオ型の二種類があり、これらが様々な反応条件下で異なる速度で反応することが知られています。したがって、これらの存在比を詳しく解析することが必要不可欠になります。オゾン分解法は、これらの構造を別々に定量できる代表的な方法であり、非常に重要です。
組織によるリグニン構造の差異の分析
樹木細胞は組織により働きが異なりますが、それに伴って、リグニンの構造に差異があるかどうかを調べています。これにより、リグニン構造と細胞の役割の間に何か関連があるか推定することが可能となります。この研究は、リグニンの植物体中における存在意義にかかわる大きな問題で、非常に興味深い知見が得られると期待されています。
最新スペクトル法によるリグニン構造の解析
複雑なリグニン構造を、NMR や IR-SNOM 等の最新の分析機器により、非破壊的に分析しています。特に IR-SNOM は、まだ木材組織の分析には利用されておらず、研究の大いなる発展が期待されています。IR-SN OM は赤外顕微鏡の一種ですが、木粉を溶媒に溶解させることなく直接観察することができ、また、高分解能であるため、細胞壁と細胞間層の IR スペクトルを別々に観測することができると期待されています。
最新の顕微鏡技術を用いたパルプ表面の直接観察
現存の植物バイオマス利用法の中で最大を占めるのは、化学パルプの製造工程ですが、パルプ中に残存するリグニンの構造を解明することが、パルプ製造過程の効率を改善することに直結します。この研究では、AFM や SEM によりパルプの表面を直接観察することによって、パルプ中に残存リグニンがどのように分布しているのかを詳しく調べています。
「植物細胞壁成分の化学的反応性の解析」
酸素系漂白過程における多糖類・リグニンの反応機構の解析
現在のパルプ漂白過程では、環境負荷を低減するため、塩素漂白に替わって酸素系の漂白が導入されています。しかし、酸素系の漂白過程には、多糖類の分解が激しくパルプ強度の低下が起こるという大きな問題があります。この研究では、問題を根本的に解決するため、酸素系漂白過程における多糖類とリグニンの反応機構を非常に詳しく解析しています。一方で、この研究は環境低負荷プロセスの構築も担うので、環境化学的側面も持っています。
酸素系酸化剤によるリグニン酸化反応の機構的解析
この研究は、上記と大きくかかわっていますが、漂白過程に限定しない広範なリグニンの酸化反応を対象としています。リグニンの酸化は、地球上の炭素循環と大きくかかわっています。リグニンは通常の条件では酸化されにくく、これが地球上の炭素循環の周期を長くすることに大きく貢献していると考えられます。様々なリグニンの酸化反応機構を解明することによって、地球上の炭素循環系におけるリグニンの役割を、より明確にすることができます。
酸・塩基触媒によるリグニン分解反応の機構的解析
植物バイオマスを利用する上で、酸処理は最も頻繁に用いられる方法です。またアルカリ処理は、化学パルプ製造過程の蒸解において用いられます。これらの反応を機構的に詳しく解析することによって、より効率的なバイオマス利用技術を開発することが可能になります。また、反応機構自体が基本的かつ広範に及ぶため、基礎的な有機反応論という観点からも非常に興味深い研究です。
有機溶媒系におけるリグニン分解反応の機構的解析
リグニンは基本的には疎水性物質であるため、水系よりも有機系溶媒に溶解しやすい性質を持っています。したがって、有機溶媒系においては、より温和な条件でリグニンを分解することが可能と考えられます。また、触媒である酸や塩基の添加量も少なくすることが出来ると期待されます。この研究では、有機溶媒系におけるリグニンの反応を機構的に詳しく解析し、植物バイオマスの利用に適用できる有機溶媒系の反応過程を構築することを目指しています。
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